医療法務

医師・看護師の働き方改革をどう進めるか?

1週間の労働時間が週60時間を超えるものとしては、医師、教員、輸送・機械運転従事者、自動車運転従事者が特に多くなっています。

論点整理で、「自己研鑽」について「労働時間」に該当するのかなどの問題が出てきました。

要するに勉強をするために医学書を読んでいるという時間は労働時間に該当するのでしょうか。こうしたものは関係者間で共通認識がありません。また、医師の場合は、論文、患者のカルテを多角的に検討するために診療外に検討したりしています。つまりモザイク上であり、医師は労働時間、手空き時間がゴシックのようになっています。したがって医師は病院にいる時間が長いということこそ問題ともいわれています。

また、宿日直については、労働基準監督署も厳しく対処されるところです。労務の密度は高いところもあれば、低いところもあり、医療機関や診療科によってその実態は様々であるともいえます。発端は奈良における最高裁判決が出てからといえます。この点、タイムカードの整備など基本的な点を指摘されることが多いといえます。また、仮眠しているとどうなるのか、またシフト上研修医が当直をすると、そのまま休みにするのが望ましいものの、日勤から外れると研修の機会がなくなってしまうというような問題もあります。

NICUは、一部変形労働時間制度の導入をすることなどが先駆けではないかと思われます。当直といってもその実態は様々ということができるのです。

臨検が入った場合はまず宿日直がみられることになります。また、労働環境の緩和になるためには、地域の医療機関とのタスク・シェアリングが必要になってくるのではないかという問題も出てきます。このような状態であれば病院同士がくっつくしかないのではないかということです。

また、トヨタや三井住友海上などでは当たり前のことですが、女性だからといって出産・育児の場合は、それに対応した労働態勢の整備が必要です。統計をみると、20代と比較して、30代の女性医師の労働時間が極端に減少し、そのまま、30代、40代、50代とほぼ横ばいとなります。また稼働していない女性医師も多いといわれています。医療機関の場合は出会いが少なく、医師同士の婚姻が、感覚的に7割を超えるのではないかといわれることもあります。

そこで、出産育児等と医師の業務を両立し、短時間勤務等の多様と柔軟な働き方、宿日直、時間外勤務の調整をすることになります。

改革には痛みもともないます。多くのタイムカードを導入した公病院では、時間外労働がほぼ例外なく増加したといわれています。適正化されたとみればそれまでなのですが、こうしたことがタイムカードなどの導入、時間外労働の「定義」を明確にしておかないといけない、といったものであるといわれています。

まず、労働弁護士として、各医療機関が喫緊に取り組まなければならない取り組みは、労働時間の適正化、36協定の点検、既存の産業保健の仕組み、パラメディカルへの業務の移設、医療秘書の導入となります。外来が終わると、医師は病棟に戻るので医療秘書の統括役がいないという問題点も指摘されています。しかし医師の指示の下である必要がありますので、業務委託などは許されないものとされています。

そして医療機関の実情にあった労働時間短縮の取り組みが必要です。複数主治医制度の導入などがあり得ます。複数制度にしないと休みずらいものがあり、外科系と異なり内科系は複数主治医制度の導入が困難といわれています。しかし医師の健康管理が目的となっています。手段としては、第一、労働時間の短縮、第二、労働時間の管理があります。第一の戦術としては、応召義務の院内定義、タスク・シェアリング、タスク・シフティング、女性医師の活躍、地域市民の理解、第二の戦術は実労働時間、在院時間の管理です。医師の場合は、「在院時間」の管理も重要になってくるということを理解しましょう。

2024年度以降は医師の労働時間の上限規制が行われます。

A 診療従事勤務医

B 地域医療確保暫定特例水準

C 集中的技能向上水準(初期研修医、後期研修医(専門医を目指している医師)

役人言葉で、「診療」「従事」といわれても「?」という感じでありますが、上限水準を休日労働込みで年間時間、月当たりの時間ということで、Aは年間960時間です。

BCはいずれも年間1860時間とされます。

この時間は36協定を結んでも限界値です。

しかし、年間1860時間ということになると、一週間当たりの残業時間は80時間から90時間になってしまいそうです。普通なら過労死レベルです。しかし、ここには「在院時間」がデータですので、今後は「診療時間」「診療外時間」「待機時間」「3つの合計」「オンコールの待機時間は除外するか」という観点が必要となります。

ところで、病院常勤医師の月当たりの当直回数ですが、統計上は0が46パーセント、4回までが42パーセントとされています。では、9回までが12パーセントいるという統計がありますが、急性期病院は単価が高いからくりがあります。救命救急入院については、保険診療点数が高いとされています。特にNICUなどは、常に集中治療室にいることになっていると、その医師は当直ができないということになります。ICUの医師の勤務場所の要件は「集中治療室に係る診療報酬の施設基準において、医師の勤務場所は治療室内に常時勤務していることが要件になっていることが多い」とされています。救命救急入院化は、点数は1日最大11393点です。

2024年4月を目指し、医師は、A分類の960時間労働に抑えるということになります。

残業代の請求は弁護士からされるというイメージが多いと思いますが、労働基準監督署からの是正勧告を得て、1億2000万円の未払い残業代を支払わざるを得ないといえます。(都立小児総合医療センター事件)

また、残業時間を100時間から150時間に結びなおしたという事件も起きました。(岐阜市民病院事件)

昭和大学江東豊洲病院における立ち入り調査に対する対応

これをヒントにどのように改善すると良いのでしょうか。

・当直を各科ひとりから、内科系、外科系とざっくりにした。

・複数主治医制度を導入

・院内では内部の問題(所定内労働時間)、所定外労働時間(残業時間はタイムカードで管理するしかない)

・タイムカードを打刻するように担当者を置く(就業管理システムの実践的機能)

・医師の習性を把握する(細かいことが苦手)

 

それでは、宿日直の基準をみていくとどうなるでしょうか。

1、睡眠がとれるようにする

2、相当の睡眠設備の設置と夜間に充分な睡眠時間の確保

3、宿直回数は原則として週1回、日直回数は月1回を限度

4、宿日直手当は、職種ごとに宿日直勤務に就く労働者の賃金の独り1日平均額の3分の1を下らない

 

医師の宿日直はまず届出をしないとダメです。監視又は断続的労働に該当します。

法律上の宿日直⇒労働者の本来業務なし、構内巡視、電話対応、非常事態など労働ほとんどなし

医師の宿日直⇒軽度又は短時間の業務のみが行われている場合に認められている

パターンとしては、日中と同程度の診療が発生していると宿日直には該当しません。他方、ほぼ寝当直の場合は問題がありません。しかし、継続的に診療が発生している場合がグレーゾーンといえます。この点は、医師会からの問題提起があり中間的ルールの整備を求める声もあります。

医師の宿日直許可基準の表現が変更されましたが、表現内容が変更され実質変化はありませんでした。ただ、宿日直の許可は、特定の時間帯、業務の種類に限って与えることも可能となりました。医師についてのみ深夜の時間帯という許可もあり得ます。

当直翌日に終日勤務が免除されると事業者側が損をしている面もあるため、変形労働時間制導入の課題、問題点を検討することになります。

しかし、医師数の少ない診療科は難しい、複数主治医が採用できるものが少ない、医師倫理の使命感で居残る医師がいる、誰がシフトを作るのか、1か月単位の変形労働時間制は1週間平均し、40時間で組むことになりますが、その枠に収めきることが難しい。