医療法務

誤って薬を取り違えた薬剤師の責任は?!

誤って薬を取り違えた薬剤師の責任は?!

 

  • 調剤をした薬剤師は、民事責任を問われ、刑事責任、行政責任を問われる場合もあります。
  • 責任を問われるかどうかを判断するうえでは、義務を尽くしたかどうかがポイントとなります。
  • 調剤に関わっていなくても、薬局開設者や管理薬剤師が責任を問われる場合があります。

近年、薬剤師に対して責任を問われるケースも出ています。そこで①民事責任、②刑事責任、③行政責任、④管理者の責任にパターンを分けて解説していきたいと思います。

1.民事責任

もし薬剤師が誤って調剤してしまい、そのために患者に健康被害が起こった場合は、民法上の不法行為にあたります。この場合、薬剤師が患者に生じた損害を金銭的に賠償しなければならないということになります。

 

不法行為には、①権利侵害、②故意又は過失、③因果関係、④損害の発生・算出といったところが要件となります。

権利侵害については、患者さんに健康被害が発生すれば要件を満たす場合になります。そして、過失についても、民事上、正しい薬剤を提供すべき注意義務を負っている薬剤師がその義務に違反して異なる薬剤を渡したということになれば、過失が肯定されることが多いと思います。

 

1-1.過失

過失というと、法的には、客観的過失のことをいい、主観的な「慢心」のようなことをいうのとは異なります。

予見可能性があったにもかかわらず、結果回避義務を怠ったことが今日では過失の概念とされています。

この点、薬剤師に課せられている注意義務には、1)処方箋を確認すること、2)そのとおりに調剤する義務が法令上あります。(薬剤師法23条2項)

そうすると、処方箋通りではない薬剤を調剤してしまったことにつき、過失がないようなケースはほとんど想定できないといえるかもしれません。

たしかに、「過失」は注意義務を尽くしていたにもかかわらず、回避できないといえる場合には認められません。しかし、薬剤の取り違えのような単純な事例であれば、義務の内容も分かりやすいといえます。この点は、服薬指導義務、疑義照会義務とは異なるものといえます。

過失は、注意義務違反と位置付けられる今日では、独立して因果関係を論ずる意味に乏しいと考えられます。

例えば、調剤は間違えたが、生じた健康被害との間に法的な因果関係が認められない、というような事例が想定されます。一般的に、患者さんの側の行為をあげつらって因果関係がないと主張することは難しいですが、第三者の行為が介在していたり、介在の経過が以上であったり、介在事情の結果に与える因果性が強い場合は、因果関係がないといえるかもしれません。

 

1-2.損害の発生

薬剤師の調剤ミスとの関係で、ミスはいけないかもしれませんが、具体的な健康被害などの損害が生じていない限り、民事責任が生じることはありません。この場合は、刑事責任、行政責任によることになるかと思います。

薬剤の取り違えがあったとしても、患者が気付き服用しなかったというような場合は、損害自体がないということになるかもしれません。

民事責任では、健康被害という損害が発生しているかがポイントになるパターンが多いといえるでしょう。

  • 頻尿治療薬が処方されたにもかかわらず、高血圧治療薬を調剤し、服用した患者が死亡した場合に、薬剤師などに2500万円の支払いを命じたケースもあります。

 

2.刑事責任というパターン

さて、刑事責任ですが、薬を飲ませて健康被害を負わせたという場合、故意犯だと傷害罪が成立しかねません。また、業務上過失致死傷に問われる可能性もあり、自由刑になれば薬剤師資格に影響を与えかねません。

 

  • ワーファリンの薬を間違えて調剤し、患者を死亡させたとして、調剤した薬剤師と鑑査した薬剤師が罰金50万円となった場合があります。

 

調剤過誤に関しては、刑事事件のみならず行政事件に発展していく可能性もあるので、まずは弁護士に気軽に相談すると良いと思います。

 

もちろん調剤過誤があったからといって、すべてが起訴されるわけではありませんが、そもそも書類送検もされないことなどは考えられず、警察官や検察官から呼び出される可能性は十分にあり、その注意義務違反の程度によっては、刑事罰や行政罰に及ぶ可能性も十分にあります。

3.行政責任について

薬剤師は、罰金以上の刑に処された場合は、免許取消し、業務取消などの懲戒処分に処されることがあります。(薬剤師法8条、5条)

この場合は、行政処分ということになりますから、刑事弁護や行政事件に精通している弁護士に依頼するのがベストといえます。つまり、厚生労働省が事件として把握したものを医道審議会にかけて、必要と判断された場合に行政処分がされることになりますが、ここでも、行政処分を軽くするための弁護活動が大切といえます。

上記のワーファリンの量を間違えた場合は、業務停止6か月の処分となっています。

4.薬局管理者や管理薬剤師の責任

薬局開設者や管理薬剤師は、このような調剤過誤があった場合、調剤に関わっていない場合でも、使用者責任により民事責任を負う可能性があります。

また、薬局開設者においても、債務不履行により損害賠償を追及される可能性があります。

管理体制によっては、薬局開設者も刑事罰を招く恐れがあります。

以上