刑事弁護

条例違反(淫行)の自首

名古屋大学に通っている大学4年生の小石川朔くんは、SNSで17歳の女子高校生の茉奈と知り合った。

そして、近隣のホテルで性交渉をしてしまった。現金は渡していないが合計1万円あまりの食事をおごっている。そして、連絡先や会話記録を削除して連絡先を断っている。

 

私選事件は在宅事件が相当な割合を占める

 被疑者国選事件は逮捕・勾留されていることが条件となっているため、朔くんのケースのような場合、私選事件は在宅事件が相当な割合を占めることになります。また、現行犯逮捕されず在宅のまま不安で私選弁護の依頼に訪れる方もいらっしゃいます。

 

 しかし、有名漫画家の児童ポルノ事件と同じく、摘発まで1年というケースもめずらしくありません。また、犯罪数の減少に伴い、警察も微罪にまで立件することを目指すケースが多くありません。

 しかしながら、犯罪について一番身に覚えがあるのは本人です。このケースでは婚姻を前提としているなどの特段の事情がない限り条例違反に問われるでしょう。そこで犯罪実行後、逮捕や書類送検されるまで不安になって相談をされる方も多くなっています。特に在宅で取り調べを受けているものの、容疑が固まり次第逮捕されるというケースもあります。

 このように、刑事弁護の観点からいうと、捜査機関から接触を受ける前に相談に来ることは珍しいことではありません。このような場合、法律の専門家である弁護士、特に刑事法はどの弁護士も一定の知見を持っている可能性があります。まずは弁護方針として「自首」や「示談」の検討をすることになります。

意外と自首といっても減軽は少ない

 確かに自首をすれば、刑は減軽をすることができるのですが、これは任意的減軽にすぎません。行為責任主義が量刑の中心の多くを占める以上、自首が大きなケースを占めることは少ないといえます。私が修習生のころ、部長判事(部総括判事)が自首の成立と減軽に反対したものの、力の強い右陪席と左陪席が主体となって自首を認め刑を減軽をして部長判事が憮然としていたことがありました。私も弁護人として幾重に自首の成立を主張したことがありますが、自首を理由に刑が軽くなったというケースは特筆すべきものはありません。自首の一般的な意義は大きいものではなく、これを過大視するのは不合理です。

では自首をするメリットとは?

 自首をするメリットは、逮捕を防止するということにあります。結局、量刑は行為無価値を中心に決められるので、自首しようがしなかろうが量刑に大きな影響はありません。しかし、逮捕については、証拠隠滅、逃亡の可能性という要件となりますがこうした条件を整備して自首をすれば逮捕される心配は減退するといえます。

 早目のタイミングでの自首や警察に示談の意向があるということを弁護人を通じて伝えておけば、普通は逮捕まで至らないことが多いですが、弁護人がいない場合は外堀を埋められ逮捕に至るケースは「警察24時」などの番組で紹介されるとおりです。

 実際に、在宅事件のほとんどは重くても執行猶予付きの懲役刑であることがほとんどで実刑は稀です。そういう場合、被疑者にとって一番の不利益は逮捕です。逮捕された場合は、漫画でみるような牢屋に本当に入れられます。水すら好きなときに飲めません。カルロス・ゴーンもびっくりの「人質司法」は西欧とは異なる極めて過酷な仕打ちにあります。

 逮捕・勾留された場合は、肉体的・精神的苦痛はもちろんのこと、職のみならず住居を失う可能性があり、剥き出しの好奇心のマスコミが実名報道をして、それをインターネットに転載する生業のものおいます。

 報道されるかどうかは多くが気にするところですが、公務員と高齢者以外は報道されると考えてよいでしょう。原則記者クラブにファックスをされて、実名報道をするかはメディアの自由勝手気ままにあかせられています。つまり逮捕されれば有名人であろうがなかろうが実名報道されることが多く、反対にそうでなければ、漫画の作者の書類送検のように、よほどの著名人でない限り、繰り返すとおり逮捕されなければ実名報道されません。

 また、実名報道については、その削除は最高裁のグーグル事件判決により不可能になりました。したがって、不可逆的にインターネットで逮捕記事を検索し続けることができることに最高裁はお墨付きを与えているのです。こうした事態は「忘れられる権利」を保障した憲法13条の趣旨に反することは明らかですが、当面は現状が変わることはないでしょう。

 このため、逮捕されるか否かは、多くの在宅事件において最大の関心事といえます。そして不利益である身体拘束とそれに伴う報道を回避するのに有効であることが自首の特徴になります。マスコミとの交渉をしたことがありますが産経新聞は「文句があるなら書面で送れば」など、正面からは全く取り合ってくれません。つまり、プライバシーや公共性よりも新聞ののぞき見や営利性が今日では優越しているといえる残念な状況にあるといえるのです。

弁護士に相談

 今回の朔さんのケースでも、結婚が前提というのは大学生や高校生であればさほどめずらしいことではありません。また、朔さんが女子高校生について児童であることを知らなければ犯罪は成立しないことになりますので、自首をする必要性を弁護士とよく検討する必要があります。買春事案の場合、対償の約束が年齢を知る前であれば児童ポルノ法違反ではなく、淫行条例違反にとどまることになりそうです。

 なお、警察や検察は基本的に嘘つきと考えてよいでしょう。昔の切り替え尋問のように、利益を約束させ自白させその後約束を守らないということは、形を変えて今も健在です。安易にヤメ検のようななれ合いのような弁護士に任せず、対立型の弁護士に依頼する方が、自身の最善の利益を守れる可能性が高いものと当記事は考えます。