労働問題

最高裁、性同一性障害要件、2裁判官「違憲の疑い」

朝日新聞の報道によると、「心と体の性が一致しない性同一性障害」の人たちの戸籍上の性別変更を可能にした特例法をめぐり、生殖機能を失わせる手術を必要とする要件の違憲性が争われた家事審判で、最高裁第二小法廷(三浦守裁判長)は、「現時点では合憲」とする初判断を示していたことが分かった。決定は23日付で決定文は公表されていない。ただ、朝日新聞の報道によると、「社会状況の変化に応じて判断は変わりうるとして『不断の検討』を求めたほか、弁護士出身の鬼丸かおる裁判官ら2人の裁判官は「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」という補足意見を述べた。今日、米軍でトランスジェンダーにつき規制が保守派判事5名により連邦最高裁で合憲とされている中、我が国では、「現時点では合憲」という指摘がどのように変遷していくか注目される。

 決定は23日付で、4人の裁判官の一致した意見。手術を受けないままでの性別変更の申し立ては特例法の要件を満たしておらず、これを退けた。

 特例法は2004年に施行された。問題となったのは「生殖腺や生殖機能がないこと」という要件。卵巣や精巣を摘出する性別適合手術が必要となるため「性別変更の壁」と指摘され、審判では憲法13条(個人の尊重・幸福追求権)などとの整合性が争われた。

 最高裁はこの要件について、望まない手術をやむなく受けることがあり、「(同条が保障する)意思に反して身体を侵されない自由を制約する面は否定できない」との見解を示した。この見解は個別具体的な判断といえ評価することができる。つまり、性別適合手術は場合によっては命を落とすケースもないとまではいえず、特に高齢の性同一性障害の方を中心に要件には疑問符が附されることは当然のことといえる。

 一方で、要件が定められた背景を検討し、(1)変更前の性別に基づく生殖機能で子が生まれれば親子関係に関わる問題が起き、社会を混乱させかねない(2)生物学的な性別で長年、男女を区別してきた――と指摘。そのうえで、こうした背景事情への配慮が適当かは社会の状況の変化で変わると判断。要件の違憲性は「不断の検討を要する」とし、「現時点」という条件付きで合憲と結論づけた。

 鬼丸かおる、三浦守両裁判官は補足意見で、性別変更を認められた人が7千人を超え、学校や企業で理解が進むようになった変化を踏まえ、「違憲の疑いが生じている」と踏み込んだ。

 しかしながら、性別変更は既に7000名を超えており、反対にいえば法的要件から性的適合手術を7000人に強いてきたということもいえる。性的適合手術を忌避して特例法の要件を満たさない人も多く、今後、団塊ジュニア世代の晩婚化と合わせて要件の緩和が検討されるべきではないかと考える。

 しかしながら、私が弁護士出身者の判事も含めて考えるのは、正義というのは普遍的なものであり、「現時点では」などというのは正義なのだろうかということである。社会的コンセンサスや道庁圧力が緩和されたら正義に叶うようになるというのでは司法の役割の放棄とみられても仕方があるまい。

 

 性同一性障害の人はゲイやレズビアンとも異なる。それだけ少数派ということである。少数派は代表民主制の下、まず代表者を国会に送り込むことは不可能に近い。そして、トランプ政権後、ケネディ判事の引退に伴う連邦最高裁の保守化も気になるところである。こうした家族に関わる事柄は、その人の生き方そのものであり、かつ、何か政治的イシューと密接にかかわっているとも思えない。そうであれば、ゆえなく違憲の反対違憲を執筆できるほどの気概を持てるくらいが、弁護士出身者の判事には求められるといえる。

 いったん判例が作られると、その後は大法廷に廻らない限り、引用されておしまい、というケースが多く次世代にバトンが渡されるかは疑問である。立法的な解決はもちろんであるが、立法的解決が難しいからこそ司法に持ち込まれたということを踏まえる必要があるものと考える。しかし、以前明白性の要件で審理された高裁裁判例などと比較すれば、望まぬ手術を強要され身体の侵襲を受けるという視点を示したことは良かったようにも思われる。

 補足意見が指摘したように、自らが認識する性別で生きることは「切実ともいうべき重要な法的利益」だ。しかし、多くの人が当たり前に享受する利益を得るには、負担の大きい手術で生殖能力を永久に失わなければならない。その壁の高さから、ホルモン投与などで外見を変えても戸籍は変えられず、実生活で困難に直面する人も多い。

 世界的には、不妊手術の強制は人権侵害だとして、手術なしで性別変更を認める国が増えている。最高裁の「現時点では合憲」というような空気を読むような決定には失望する。正義には時間が経過したら正義に反するなどということはなく、基本的に普遍的なものだ。最高裁は、性的少数者に対する差別を改め、直ちに判例変更を行うべきであるし、補足意見を踏まえた国会や地方自治体での議論の充実に期待したい。しかし、それのみならず、引き続き同種の訴訟を提起していくことが重要なのではないか、と考える。