事務所だより

不思議の国の「ゴーン」

会社法上の特別背任、金融商品取引法違反で、東京地裁に起訴されている日産自動車のカルロスゴーン前会長が、12月29日午後11時30分、プライベートジョット機でイスタンブールに到着後、レバノン・ベイルートに向かい、12月31日午前6時30分にベイルートに到着したという。

日本のメディアは、根拠が薄弱な、①会社法上の特別背任、②金融商品取引法違反については棚に上げて、ゴーン氏の出国の経緯を明らかにすることに躍起だ。挙句、日本の主権が侵されたという論調もある。しかし、ゴーン氏はフランス人、ブラジル人、レべノン人だ。自然に考えるならば、事業者として大成をなしたフランスの裁判所で裁判を受けるのが筋のようにも思える。

日本の新聞は、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日経新聞が社説を掲載したが、いずれも不法出国に対しては批判的であった。しかし、日経新聞には興味深い事実が指摘されていた。つまり、アメリカでは金融商品取引法違反と同じ事例で課徴金の制裁を行う司法取引を行っている。これに対して、日本では、窃盗や傷害などの粗暴犯ではないのになぜ身柄拘束にこだわるのか疑問である。

これに対して、WSJは、ゴーン氏が日本で不当な扱いを受けたとして逃亡は批判できない、と指摘して、ワシントンポストもゴーン氏を批判しつつも裁判はフランスで行うのが良いと指摘している。BBCは、英国ではテロリストですら弁護士を同席のうえ自白が強要されない。しかし、日本では万引き犯のもならず、痴漢であっても23日勾留され、その対応は英国のテロリスト以下なのである。

思うに、私は、ゴーン氏の公訴事実はすべて無罪ではないかと考えている。司法取引は、本人に自白を認めさせるための手段のはずだが日本では陥れるために使っている。これでは、司法取引に応じたであろう日産幹部の証言は信用できない。

日本の人質司法は世界に類を見ない。ほぼ徹夜の取調べなどは普通に行われている。また、調書も物語のように、被疑者が何もいっていないのにすらすら記載され、それに高い証拠能力が与えられる。

今回のゴーン氏のケースは、保釈運用を変える最初で最後のチャンスと思った。

まずはアメリカのように、「自宅拘禁」の制度を設けて外出を禁止し、妻との時間を過ごさせてあげるということもあり得る。また、GPSをつけるということもあり得る。この場合、ゴーン氏が29日に新幹線に乗り関西空港に行くという時点で、東京から離れてはいけないとうい保釈条件が守られなかった。

 

しかし、工夫の成果ではあるが、今回の保釈条件が、ゴーン氏逃亡に直接つながったとみるべきだろう。

いったいどこの国に妻との接触を禁止する保釈条件があるのだろうか。アメリカでも、保釈で重要なのは、制限住居だろう。そしてそこからの移動をGPSで監視するというのが一般だ。ゴーン氏にもGPSがついていたら新幹線に乗った時点で気付き得たはずである。

アメリカでは、夫婦は互いに秘密保持特権があり夫婦間の会話がプライバシーは刑事裁判の証拠にはならない。

高野弁護士のブログにクリスマスなのにビデオ通話しかできないゴーン氏の描写があった。本件では、既に同じ案件がアメリカで審理され司法取引の対象になり、日本の処罰の重さ、具体的に実刑が際立ちすぎた。特に、本件は特捜部案件であり起訴率は100パーセント、有罪率は99.9パーセント無罪を獲得するのは難しいとしかいいようがありません。

また、なぜ西川社長は同じことをしたのに、ペナルティはないのだろうか。

ケリー氏は弁護士は、弁護士の対応は慎重になりべきではない。

考えさせられたのは保釈条件である。アメリカでは夫婦間の秘密保持特権は保障され配偶者の有罪について夫婦間の会話は、証拠禁止に該当する。保釈条件も、日本に拠点がないゴーン氏からすれば、日本人のそれより厳しくなる。特に家族と離れ離れを強いられる。もっとヒューマニティをもった保釈条件でなければ、今後ともこういうことはなくならない。