相続・遺言

金融機関からの借り入れのある父が亡くなった場合、遺産のうち価格の高い不動産を長男に相続させる旨の遺言を残して亡くなりました。この場合、注意することはありますか?

金融機関からの借り入れのある父が亡くなった場合、遺産のうち価格の高い不動産を長男に相続させる旨の遺言を残して亡くなりました。この場合、注意することはありますか?

 

  • 主には対抗要件の登記に関することです。2021年2月11日現在の日本経済新聞の報道によると、法制審議会は、相続や住所・氏名を変更したときの土地の登記を義務付ける法改正案を答申し、懈怠には10万円以下の過料を課すものとされました。
  • 令和元年7月1日改正により、従来の最判平成14年6月10日が変更されていますので、この点に絞って解説していきたいと思います。

名古屋で遺産相続に関するご相談がありましたら、ぜひ名古屋ヒラソル法律事務所までご相談下さい。

 

1.これまでの問題点と改正法の趣旨

これまで、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言があった場合、当該相続人は登記を経由しなくても、不動産の取得を第三者に対抗することができました。(最判平成14年6月10日)

これは、あくまで「相続させる遺言」判決により、相続後直ちに遺言どおりの物権変動が生じるとの理解の下、物権変動の根拠は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる場合は包括承継にあたるため、対抗問題に立たないとの理解が前提にありました。

しかし、被相続人や相続人の債権者は、自ら知り得ない遺言の有無によって、遺産に対する差押え等の権利行使の有効無効が変わってしまうため、平成14年判例によっては法的地位が不安定とされていました。

 

2.民法899条の2第1項は、「相続させる遺言」の場合でも対抗問題になる場合を規定しています。

民法899条の2第1項は、この判例の立場を立法政策で変更することにしました。

そこで、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものであるかにかかわらず、原則的な法廷相続分を超える部分については、登記を備えなければ第三者に対抗することができないとされました。

そうすると、今回のパターンでも、原則的な、つまり特別受益などの修正前のものであれば、法定相続分を超えない限りは登記はいらないという見解をとることになります。

しかしながら、本件パターンは、長男が、遺産のうち価額の高い不動産を長男に相続させるという遺言です。そうすると、これは、1)遺産分割方法の指定にとどまらず、2)相続分の指定も含まれているものと解するのが相当であり、法定相続分の割合を超える部分については、登記を経由しないと第三者には対抗することができなくなります。

これは、債権者の立場や破産管財業務などにおいても、民法899条の2第1項が相続分を超える部分については対抗問題にしていることは注意を要するといえます。

債権者は、遺言の有無にかかわらず、登記を基準に判断して法定相続分を差し押さえるなどができるようになると思われます。

3.債務の承継について

遺産のうち、債権(預貯金)についても、民法899条の2第1項により、相続人は対抗要件を備えなければ対抗できず、今後、これまで以上の「相続」をきっかけとした債権回収が進む可能性があるといえそうです。

ここで、預貯金などの「対抗要件」は民法467条によることになります。

① 共同相続人全員による債権者への通知または債務者の承諾によって債務者対抗要件を取得できること

② また、確定日付のある証書により、上記の通知または承諾をすることによって、第三者対抗要件を取得することになります。

これまで、遺産のうち預貯金について対抗要件を備えるという発想が少なかったと思います。相続のような包括承継は、対抗要件はいらないという判例理論が定着していたからです。

しかし、債権を承継した相続人が、他の相続人全員の協力を得て債務者に通知をすることは、簡単ではありません。

そこで民法899条の2第2項において、法定相続分を超えて債権を承継した相続人が遺言や遺産分割の内容を明らかにして債務者にその承継を通知したときは、共同相続人全員が債務者に通知したものとみなすこととしています。(民法899条の2第2項)

つまり、全員からの通知によらなくても、遺言や遺産分割の内容を付して債務者に通知をすれば足りると簡略化が図られているのです。

4.債務の承継について

 これまでの判例では、遺言により相続分の指定がされた場合、相続人間の内部的な負担割合は、当該相続分の指定による承継割合に従うものとして、債権者との関係では、原則として法定相続分に応じて相続債務を承継するものとされていました。(最判平成21年3月24日)

 この点、相続債権者は、遺言による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対して、特別受益等による修正前の原則的な法定相続分に応じてその権利を行使することができるよう規定されています。あくまで、「原則的な法定相続分」というのがここでのパターンになります。

 ただし、相続債権者が、「共同相続人の一人に対して、その指定された相続分に応じた債務の承認をしたときは、この限りではありません」(民法902条の2但書)とされています。

                                                                                                                                                                        以上