相続・遺言

「配偶者短期居住権」って何?~夫が死亡した後、夫所有の建物に居住中の配偶者は、暫く住むことができますか?

「配偶者短期居住権」って何?~夫が死亡した後、夫所有の建物に居住中の配偶者は、暫く住むことができますか?

 

夫が亡くなってしまい、配偶者居住権の第二の要件が満たさず、あるいは遺産分割中という場合は、妻は出て行かないといけないのでしょうか。

 

最判平成8年12月17日は、相続人の一人は、被相続人の許諾を得て被相続人所有の建物に同居していた場合、特段の事情がない限り、被相続人とその相続人の間で、相続開始時を始期として、遺産分割時を終期とする使用賃借関係が成立したものと推認し、相続人である配偶者に対して遺産分割の終了までの間の短期的な居住権を認めていました。

 

1.最高裁平成8年12月17日の「射程距離」の限界とは?

「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、「特段の事情のない限り」、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。」

「けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」

とされています。

しかし、「特段の事情」がある場合、例えば、被相続人が妻の居住建物を第三者に遺贈するなど、被相続人が自己の死亡後も配偶者にその建物に居住させる意思がなかったと認められる場合には、平成8年の判例によっては配偶者は保護されないことになっていました。

そこで、改正法では、妻がたちまち生活に困ってしまう可能性がないように、配偶者の居住権を短期的に保護することにしたのです。

 

2.「配偶者短期居住権」の成立要件とは

配偶者は、相続開始のときに遺産である建物に無償で居住していた場合、それぞれの期限まで、配偶者短期居住権を取得することになります。なお、配偶者が相続開始時に「配偶者居住権」を遺言などで取得したとき、または、相続人の欠格事由に該当し、もしくは廃除により相続権を失ったときは、「配偶者短期居住権」は発生しません。

それでは、そもそも、妻が住んでいる居住建物自体も「遺産分割」の対象である場合はどうなるのでしょうか。

2-1.居住建物が遺産分割の対象である場合

「配偶者短期居住権」は、他の相続人らに対し、以下のいずれか遅い日までの間、存続することになっています。(民法1037条1項)

① 遺産の分割による居住建物の帰属が確定した日

② 相続開始の時から6か月を経過した日

以上の、①、②のいずれか遅い日に「配偶者短期居住権」は消滅することになります。

2-2.遺産分割の対象にそもそもならず第三者に遺贈された場合など

さて、今回のパターンは、妻以外の相続人やその他の第三者が、遺贈などにより終局的に居住建物の所有権を取得してしまったパターンです。

遺贈の場合は、死亡と同時に効果を生じますので、居住建物の所有権を取得した場合は、居住建物の取得者は、いつでも配偶者に対して民法1037条3項により退去の申入れをすることができることになります。

この場合でも、配偶者が全く保護されないというのでは、妻はたちまち困ってしまいます。

そこで、その場合は、配偶者の「配偶者短期居住権」は、遺産である居住建物の取得者の申入れがあった日から「6か月を経過した日」までの間存続されるとされています。(民法1037条1項)

3.配偶者短期居住権の権利義務の内容

居住用建物について、配偶者居住権を有する配偶者と、所有権者の調整のため、配偶者居住権の権利義務は次のとおりである。

 

3-1.配偶者の権利義務

配偶者は、従前の用法に従い、善管注意義務をもって、居住建物を使用収益しなければならなくなります。(民法1038条1項)

また、配偶者は、建物所有者の承諾を得なければ居住建物を賃貸により、第三者に使用させたりすることはできません。

配偶者は、居住建物の使用収益に必要な修繕をすることができます。そして、配偶者が相当の期間内に修繕をしないときは、居住建物の所有者が修繕をすることもできます。(民法1033条2項)

また、居住建物の修繕を要するとき(配偶者自らが修繕したときを除く)、もしくは居住建物に権利を主張する者があるときは、配偶者は、遅滞なく居住建物の所有者にその旨を通知することになります。(1033条3項)

居住建物の通常の必要費は、配偶者が負担します。(民法1041条、1034条1項)

これに対して、配偶者が居住建物について、通常の必要費以外の費用を支出したときは、民法583条2項、196条の規定に従い、居住建物の所有者が償還しなければなりません。(民法1034条2項)

 

3-2.居住建物所有者の義務

居住建物所有者(といってもその他の相続人になることが多いかもしれません。)は、「配偶者短期居住権」について、その登記を備えさせる義務を負いませんが、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により、配偶者の居住建物の使用を妨げてはなりません。(民法1037条2項)

 

4.家族信託の設定は専門家に相談しよう

では、配偶者居住権が消滅する場合は、既に解説したもの以外ではどのようなものがあるのでしょうか。これは、賃貸借などの例と似ているといえます。

 

 ① 配偶者が居住建物の用法順守義務に違反し、または居住建物所有者の承諾なく、第三者に使用収益させた場合には、居住建物所有者が配偶者に対して、その消滅を通知したとき

 ② 配偶者が、遺産分割・調停・審判等で、配偶者居住権を取得したとき

 ③ 配偶者が死亡したとき(民法1041条、597条3項)

 

 なお、配偶者短期居住権が消滅したときは、配偶者は、原則として、居住建物の原状回復義務を負うことになっています。(民法1040条1項)

 ただし、いわゆる通常損耗並びに経年劣化については除かれます。(民法1040条2項、621条括弧書)

 また、附属物のうち、分離ができず、分離に過分の費用がかかる場合は収去の必要はありません。(民法1040条、599条)

 

相続において「配偶者居住権」や「配偶者短期居住権」を利用するなら、弁護士や司法書士、税理士などの専門家によるサポートが必須といえるでしょう。

 

当事務所では遺産相続案件に力を入れています。

死後の相続関係や居住関係について不安があるなら、一度弁護士までご相談ください。

以上