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面会交流につき間接交流のみとされた事例が不適切とされ直接交流が認められた事例

面会交流につき間接交流のみとされた事例が不適切とされ直接交流が認められた事例(大阪高裁令和元年11月8日)をご紹介します。

 

再調停後もなかなか面会が再開に至らないケースが多いので、一つの参考になると思います。

 

【判示事項】

1 別居親であるお父さんが、同居親であるお母さんに対して、前件の調停条項に基づく面会交流が実施されなくなったとして、再調停、再審判を求めた事例である。

2 原審は間接交流のみしか認めなかったが、高裁は、①従来の父子関係、②直接交流時の状況、③未成年者らの心情―に照らすと、制限禁止事由はなく、速やかに再開することが未成年者らの福祉に適うとした。

【事案の概要】

1 お父さん(即時抗告人)とお母さん(相手方)は、平成22年に結婚し、22年7月に長女が、25年8月に二女がうまれた。裁判時は、9歳、6歳である。

  平成27年2月、離婚の中に面会交流条項を入れた離婚調停を成立させた。

2 お父さんとお母さんは、離婚後も一緒に海外旅行をしたり親族の挨拶に同行したりした事実がある。

3 お母さんは平成30年5月から心療内科で投薬治療を受けるようになり、平成30年6月から休職した。この際、お父さんが後妻と対面させたこともあり、お父さんとの関係が悪化したものである。

  お母さんとしては、同年9月には復職したが、ストレス関連障害障害により通院治療中である。このようなストレス増加の誘因となるお父さんとの接触を避けることが望ましいと診断された。

  その後、再調停が起こされたというものである。

4 家庭裁判所調査官の調査報告は次のとおりである。

 ・C及びDは父を慕う気持ちはあるが、忠誠葛藤にある。

【高裁の判断】

1 主に間接交流にとどまらせた理由として、母親は自らの心身の不調を理由に間接交流にとどまらせたというべきことになった。

  しかしながら高裁は、平成30年9月に復職しており、直接交流に応じることで健康状態が悪化し、C,Dの監護に具体的支障が生じたり、C、Dに不安を抱かせるような状況にはないとした。

  C及びDや心身の発達状態からすると、目の届く範囲で、お父さんとお母さんが直接対面せずに、受渡しを実施することができるとして、心身の不調は直接交流を制限するべき事由にはならないとした。

  そのうえで、お母さんとお父さんに対し感情的反発が強い現状では、事前に、日時、場所、方法ということは困難であるから、実施要領を定めて具体的に定めるということであり、ただし学校行事への参列については、その実績がなく、こどもの意向が確認されていないとして実施要領から除かれた。

【判旨】

第1 抗告の趣旨及び理由
   別紙即時抗告申立書,抗告理由書及び第1主張書面(各写し)のとおり
第2 当裁判所の判断
 1 抗告人は,当審において,次のとおりの要領で抗告人と未成年者らの面会交流を実施すべきであると主張する(以下「抗告人主張実施要領」という。)。
 ア 面会交流の頻度,日時,時間
   月1回 毎月第3土曜日の午前10時から午後5時まで
 イ 未成年者らの受渡場所
   F中央改札口付近
 ウ 未成年者らの受渡方法
  (ア) 相手方は,上記アの面会交流開始時に,上記イの場所におい   

て,抗告人に対し,未成年者らを引き渡す。
  (イ) 抗告人は,上記アの面会交流終了時に,上記イの場所におい   

て,相手方に対し,未成年者らを引き渡す。
 エ 代替日
   未成年者らの病気等,やむを得ない事情により上記アの面会交流を   

実施できない場合は,翌月の第1土曜日の午前10時から午後5時に実施する。

 オ 学校行事への参列
   相手方は,抗告人が未成年者らの入学式,卒業式,運動会,学芸会, 

学習発表会,文化祭等の学校行事に参列することを妨げてはならない。

 抗告人と未成年者らの従前の父子関係は良好であり,平成30年6     

月末ころまでは,宿泊はもとより2回にわたり家族で一緒にG旅行に出掛けるなど,本件実施要領に捉われずに柔軟かつ円滑に抗告人と未成年者らの直接交流が行われていたのである。

その際,抗告人が未成年者らに対して不適切な言動に及んだことも窺われない。そして,未成年者らは,現在も抗告人を慕い,直接交流の再開を望んでいる。このような事情を考慮すると,直接交流を禁止すべき事由は見当たらない。

長女は,抗告人に会いたいと思う一方,相手方の心中を慮って会うことを躊躇するという忠誠葛藤に陥っており,この状態が続けば,長女に過度の精神的負担を強いることになる。

したがって,抗告人と未成年者らの直接交流を速やかに再開することが未成年者らの福祉に適うと認めるのが相当である。
 相手方は,心身の不調を理由に間接交流に止めるべきであると主張する。しかし,相手方は,同年9月には復職できるまでに回復しているのであるから,直接交流に応じることによって健康状態が悪化し,未成年者らの監護に支障を来たしたり,未成年者らに不安を与えたりする状態に至るとは考えられない。また,相手方は,抗告人との接触を避けることが望ましいと診断されているが,未成年者らの年齢(9歳,6歳)や発達状況からすると,当事者のいずれかの目が届く範囲の短距離であれば,受渡場所まで未成年者らだけで歩いて行くことは可能であるから,相手方と抗告人が直接対面することなく未成年者らの受渡しができないわけではない。したがって,相手方の心身の不調は,直接交流を禁止,制限すべき事由にはならない。相手方の主張は採用できない。
 もっとも,相手方の抗告人に対する感情的反発が強い現状では,当事者間で事前に面会交流の内容を協議することは困難であるから,本件実施要領を変更し,面会交流の内容を具体的に定める必要がある。

その内容としては,抗告人主張実施要領に特段不適切な点もみられないので,概ねこれに従い,別紙面会交流実施要領のとおり定めるのが相当である。ただし,学校行事への参列については,従前の実績が明らかでなく,未成年者らの意向も確認されていないので,現段階で実施要領に盛り込むのは相当ではない。

【実施要領】
       面会交流実施要領
1 面会交流の頻度,日時,時間
  月1回 毎月第3土曜日の午前10時から午後5時まで
2 未成年者らの受渡場所
  F中央改札口
3 未成年者らの受渡方法
 (1)相手方は,上記1の面会交流開始時に,上記2の場所におい て,抗告人に対し,未成年者らを引き渡す。
 (2)抗告人は,上記1の面会交流終了時に,上記2の場所において,相手方に対し,未成年者らを引き渡す。
4 代替日
  未成年者の病気その他のやむを得ない事情により,第3土曜日に 

面会交流が実施できないときは,翌月の第1土曜日に同様の要領で実施する。翌月の第1土曜日にも実施できないときは,当事者間で協議し,当月の代替日を翌月の面会交流の日までのいずれかの日に定めて同様の要領で実施する。

5 連絡方法
   当事者双方は,他方当事者に対し,本決定確定後10日以内に面会 

交流に関する連絡方法を通知し,同連絡方法を変更した場合には,速

やかに新たな連絡方法を通知する。
6 当事者双方は,未成年者らの福祉に配慮し,抗告人と未成年者らの面会交流が円滑に行われるよう協力する。
7 当事者双方は,合意により上記1ないし4の内容を変更することができる。

【解説】

1 面会交流は、子の健全な育成にとって有益なものであり、その許否は、子の福祉、子の利益を最も優先して決せられる。(民法756条1項後段)

  実務では、子の心理状態、面会交流に対する子の態度、子の監護状況、非監護親の子に対する態度や愛情、面会交流に対する姿勢、監護親の意向などを考慮したうえで、面会交流が子の福祉に反する場合でなければ原則としてこれは認めてきたものである。

2 具体的には、非監護親の子に対する自然の博愛の尊重、子との情緒的交流の維持、両親からの愛情により得られるプラス面、子の連れ去りリスク、DV、暴力、虐待リスク、父母間の紛争激化による子の精神的同様や緊張、情緒不安定からくる学業や生活態度への影響、子の安定した生活環境の破壊などのマイナス面を総合考慮し、面会交流を禁止し、制限しなければ子の福祉を害するような場合を除いて、面会交流の方法、態様、条件などを工夫しこれを認められる方向であった。

3 本件では事案の特徴として、前件調停後2年以上の間、面会交流が宿泊を伴い円滑に実施され、未成年者らは父母と一緒に2回にわたり海外旅行に行っていることに特色があるといえる。

  にもかかわらず面会交流を中断したのは、父と母につき父の再婚を理由とするわだかまりがあるといえる。これによる母親の体調不良のほか、長女の忠誠葛藤を取り上げ、原審は面会交流を間接交流にとどめた。

  しかしながら、高裁からすれば、忠誠葛藤があるのであれば、それを解消するということであれば、直接交流を速やかに再開することの方が子の福祉に資するとの判断が特筆されるといえると考えられる。

4 なお、原審が批判されるべき点は、間接交流は、直接交流ができない場合の妥協の産物と考えるべきではないように思われる。こどもたちも、プレゼントでも忠誠葛藤により手紙やプレゼントを受け取ることにつき不安に感じることもある。他方、間接交流は直ちに直接交流につながる保証もなく、安易に次善の策や代替物として考えるべきではないとの指摘もある。