パート労働者って何?!パート労働者と均衡待遇等労働者保護の法律について名古屋市の弁護士が解説
目次
パート労働者って何?!パート労働者と均衡待遇等労働者保護の法律について名古屋市の弁護士が解説
「パートとアルバイトはどこが違うのだろう?」
「フルタイムパートとパートは何が違うのだろう?」
「パートはみんな有期雇用ですよね?」
「均衡待遇って何ですか?」
こういった疑問を持つ方が少なくありません。
パート労働者は、通常の労働者と比べて、「短い」時間だけ勤務する労働者のことをいいます。ただし、実際には、正社員と同じ時間働いているものの、正社員と異なる処遇での雇用形態を指していることも少なくありません。
なお、パート労働者と「雇用期間の定め」は関係ありません。たしかに多くのパート労働者は有期雇用ですが、パート労働者であっても、「期間の定めのない契約」、つまり無期雇用のパート労働者の方もいらっしゃいます。
この記事では実際にパート労働者に、労働基準法等の労働者保護法規が適用されるのか、2018年のパート有期法について触れて,正社員との均等・均衡待遇についての規定について、弁護士が解説します。
1.パート労働者と労働法の保護
パート労働者も労働者です。このため、
- 労働基準法
- 労働契約法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
- 雇用期間均等法
などの「労働法」の保護を受けます。
ただし、法律の中には、一定時間以上の勤務を適用要件としているものがあります。
- 雇用保険の被保険者資格
これらも法律要件を満たしている場合には、それらの規定も当然に適用されることになります。つまり、パート労働者というだけで、法令の適用を除外することはできないのです。
2.パート有期法の内容
1993年に「パート法」が適用されましたが、
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善に関する法律
(通称、「パート有期法」といいます。)
に2018年に改正されました。
パート有期法の対象となるのは、
- 短期間労働者
一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比べて短い労働者のことをいいます。(パート有期法2条)
- 有期雇用労働者
の2つのいずれかを満たしている必要があります。
2-1.フルタイムパートについては、「有期雇用」の要件に該当する必要あり。
いわゆるフルタイムパートと呼ばれるような、「通常の労働者」と所定労働時間が同じ労働者は、「短時間労働者」にはなりません。ただし、一般的にフルタイムパートの場合は有期雇用のケースが多いといえます。そして、事業主と期間の定めのある労働契約を締結していれば、「有期雇用労働者」に該当することになるので、フルタイムパートでも、「パート有期法」の適用がある場合があるのです。
2-2.労働条件の決定・明示・説明に関するルール
パート労働者にも労働条件による「文書等の交付」義務があります。これに加えて,昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口を文書の神津等により明示しなければならないとされています。(パート有期法6条1項)
このほか、事業主は、短期間・有期雇用労働者を雇い入れた場合は、速やかに、不合理な待遇の禁止(8条)、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止(9条)、賃金の均衡考慮の努力義務(10条)、通常の労働者への転換推進制度(13条)に関し、講じることとしている措置の内容について、パート労働者に説明をしなければいけないものとされています。
また、事業主は、短時間・有期雇用労働者から求めがあった時は、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに、労働条件に関する文書の交付(6条)、就業規則の作成の手続(7条)などについて、短時間労働者等に説明しなければいけないものとされています。なお、これを求めたことによる不利益取扱いも許されないものとされています。
3.短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との均等・均衡待遇
パート有期法は、中小企業を含め2021年4月1日から施行されました。したがって、短時間労働者と有期雇用労働者に対する通常の労働者との間の「不合理」な待遇の相違が禁止されています。
特に、以下の点がポイントです。
- 不合理な相違が禁止される待遇の例示として基本給、賞与が明記されたこと
- 「待遇のそれぞれ」を比較すること
- 不合理かどうかの判断は、当該待遇の性質や目的に照らして適切と認められるものを考慮します。
では、パートタイム有期法8条の法律要件はどのようなものでしょうか。
① 短時間・有期雇用労働者であること
② 短時間・有期雇用労働者の待遇と当該待遇に対応する通常の労働者の待遇に相違があること
③ ②の待遇の相違が、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理であること
―が法律要件となっています。
法律要件②について
- 待遇の範囲
一般的に労働条件としては、賃金と労働時間が重要とされています。ここでいう「待遇」についていえば、全ての賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇などの「待遇」をいいます。
ところが、労働時間、契約期間については、「待遇」に含まれません。
- 待遇の比較方法
待遇の比較をするときは、「個別ごと」に比較をすることになっています。
例えば、「住宅手当」なら「住宅手当」、「賞与」なら「賞与」といった個別の項目ごとに比較するものとされています。
ただし、「ある待遇が他のB待遇と結びついており、その他の事情として考慮されること」はあります。例えば、旧労働契約法20条の長澤運輸事件最高裁判決(最判平成30年6月1日)では、①嘱託社員の基本賃金や②歩合給が,③正社員の基本給、④能率給、⑤職務給に対応するものであることを考慮する必要があるとして、これらの複数の待遇を考慮して待遇の相違が不合理化か否かを考慮することになっています。
- 比較対象となる労働者
通常の労働者との待遇を比較するときに、多数いる通常の労働者のうち、どの通常の労働者の待遇とを比較するかが問題となります。この点、誰も「当該待遇に対応する通常の労働者」であるかは、原告である短時間・有期雇用労働者が選択できると考えられています。
なお、旧労働契約法20条の最高裁判決では、原告労働者により比較の対象とされた無期契約労働者と有期契約労働者との間で比較がなされています。こおことに照らすと、選択は柔軟に行われているといえます。(学校法人大阪医科薬科大学事件(最判令和2年10月13日)、メトロコマース事件(最判令和2年10月13日))
法律要件③について
- 「不合理」の意味
旧労働契約法20条のハマキョウレックス事件(差し戻し審)の最判平成30年6月1日は、「不合理と認められるものとは、有期契約労働者と雇用契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価できるもの」としています。これは、パート有期法8条の「不合理」も同じになると考えられます。
- 不合理性判断の考慮要素
では、どのようなときに、パート有期法8条が待遇の相違が不合理かどうかを判断する考慮要素になるのかを確認していきましょう。
ポイントとなるのは、
- 職務内容
職務内容とは、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度のことをいいます。1)シフトへの組み込み方、2)所定休日、3)実際の労働時間などの提供している労働量、4)任されている業務の裁量の程度、5)残業、6)休日出勤の有無、7)クレーム対応の要否―が挙げられます。
- 職務内容
職務内容の変更の範囲は、過去、現在、未来を含めて、勤務地や職務内容が変更するかどうか、および、その変更の範囲のことです。
- 配置変更の範囲
配置変更の可能性は、勤務地や職務内容が変更している労働の量、任されている業務の裁量の程度、残業や休日出勤の有無、クレーム対応の要否などが含まれます。
- その他の事情です。
職務内容、職務内容、配置転換、配置変更の範囲以外の様々な事情を広く含むものとされています。例えば通勤手当については、職務内容、職務内容・配置変更の範囲が異なる場合であっても、通勤に関する実情が同一であれば、待遇(通勤手当)に相違を設けることは不合理となる場合が典型例です。
待遇の性質・目的についての使用者側の一方的な主張
待遇の性質や目的について、使用者が、一方的主張をしてくることもあります。
例えば、〇〇手当はこのような趣旨であるから、パート労働者には支給する必要はない、といったものです。
しかしながら、使用者の就業規則や賃金規程が定める待遇の支給要件や内容、支給実態、また当該待遇の制定の経過などから客観的に決められるものであり、主観的主張に必ずしも左右されるわけではありません。
例えば、最高裁判所も独自に客観的に待遇の性質や目的について認定をしています。
- 長澤運輸事件
「被上告人における精勤手当は、その支給要件及び内容に照らせば、従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるもの」
- メトロコマース事件(東京高裁平成31年2月20日)
褒章取扱要領について「業務上特に顕著な功績があった社員に対して褒章を行う」との規定について、実際には、勤続10年に達した社員に一律に表彰状と3万円が贈られていて、上記要件が形骸化しているという事情がありました。このことから、業務内容にかかわらず、一定期間勤続した従業員に対する褒章となるとして、褒章の趣旨を支給実態に基づいて判断しています。
待遇の性質・目的についての使用者側から提出される主張
- 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者は、「将来の役割期待が異なる」とか、通常の労働者については、優位な人材の確保・定着をはかり、長期的な勤務に対する動機付けをするといったものがあります。
これに対して、労働者側からは、次のような反論が出されることがあります。
- たしかに、大阪医科薬科大学事件やメトロコマース事件においては、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的が賞与や退職金の支給の目的として認定されています。
しかし、正社員に配置転換や長期勤続における職能給があるなどの個別事案についての判断であると、反論されています。
職務内容、職務内容・配置変更の範囲、その他の事情の比較方法
例えば、就業規則上では、正社員にのみ配置転換の規定があるが、実態としては、短時間・有期雇用労働者と同じく正社員は、ほぼ配置転換されていない場合が考えられます。
このような場合、職務内容・配置変更の範囲は同一とされる可能性があります。
一説(「最高裁時の判例」ジュリ1525号112頁)には、「正社員につき、就業規則上は転居を伴う配転が予定されているが、実際には行われていないとの事実が認定できる場合でも、本件と同様の結論となるか否かは別途検討する必要があろう」と、配転の実態によって、「配置の変更の範囲」の異同を判断する可能性があります。
4.パート有期法8条違反の効果
パート有期法8条は、強行法規であることから、8条に反する就業規則の規定や法律行為は無効となります。そして、パート有期法に違反する場合は、不法行為が成立する場合もあります。
4-1.パート有期法8条違反の効果
損害額はどのように扱われるかが問題となります。
待遇が均等に扱われる場合にはあ、正社員の当該待遇・有期雇用労働者の当該待遇の額との差額全額となり、均衡に扱われるべき場合には、短時間・有期雇用労働者のあるべき当該待遇の額と実際の額との差額となります。
なお、通達では、足らない部分を補充する「補充的効力」が認められるかが問題となりましたが、これは否定されています。(ハマキョウレックス(差し戻し審)事件)
なお、パート有期法は、短時間・有期雇用労働者にしか適用されることはありません。従って、労働契約法18条によって、無期転換した後の労働者には適用はありません。
4-2.差別的取扱いの禁止
法律要件
- 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容が同一であること
- 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務内容・配置内容・配置変更の範囲が当該事業所の慣行その他の事情からみて、当該事業所との雇用関係が終了するまで、全期間において、同一の範囲で変更されることが見込まれること
- 短時間・有期雇用労働者であることを理由としていること
- 差別的取扱いであること
法律要件を満たした場合、事業者は、賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の全ての待遇について差別的取扱いをすることを禁止しています。
また、不法行為として損害賠償の対象になることもあり得ます。
5.均衡待遇に関する判例
ここでは、ハマキョウレックス差し戻し審事件、長澤運輸事件、大阪医科薬科大学事件を取り上げます。
5-1.ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日)
トラック運転手として勤務していた有期雇用の契約社員が正社員との賃金格差を訴えた事件。契約社員と正社員との間では、職務内容に違いはなく、職務内容・配置変更の範囲については違いがあるとされた事案である。無事故手当、作業手当、皆勤手当、通勤手当についての相違は不合理とされ、住宅手当についての違いは合理的とされた。
5-2.長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)
会社を定年退職後、長澤運輸で定年後再雇用として有期雇用で勤務していた運転手の労働者が、定年前と同じ業務をしているのに、給料が定年前の正社員時と比べて、約2割下がったとして、その差額の支払などを求めた事案。定年前後で職務内容、職務内容・配置変更の範囲は同一とされましたが、精勤手当の相違は不合理、職務給、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与の相違は合理的とされた。
5-3.大阪医科薬科大学(最判令和2年10月13日)
賞与を正社員に支払、アルバイト職員に不支給としていたもの。当該大学では、賞与が算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報奨、将来の労働意欲向上の趣旨を含み、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着を図るなどの目的から正職員に賞与を支給しているとして、これらの性質や目的を踏まえて、職務内容の相違等を考慮すれば、アルバイトに賞与を支給しなくても合理的とした。
5-4.メトロコマース事件(最判令和2年10月13日)
退職金を正社員に支払、契約社員に不支給としていた事案。当該会社では、退職金は労務の対価の後払いや継続勤務に対する功労報奨金の複合的な性質を持ち、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保・定着を図る目的から正社員に支給しているとし、これらの性質や目的を踏まえて、職務内容の相違等を考慮すると契約社員に退職金を支給しないことは合理的とされた。なお、早出残業手当、住宅手当、褒章の相違については、東京高裁平成31年2月20日で不合理と判断されている。
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